エベレストで人生観は変わらない。
IKU
そうですね。僕らのサービスは組織を対象にしているけど、突き詰めて考えると、個人がチャレンジを通して変化するようにサポートする仕事。人間対人間なんです。そういう意味では、こちらがチャレンジをし続けていなければ、いくら「チャレンジしようよ」って話をしても聞いてもらえない。どんなことでもいいので、自分自身がチャレンジし続けることが大切なんです。
Hiro
エベレスト登頂前後で人生観や考え方など、何か変わったことはある?
IKU
それはよく聞かれるんですが、実は僕の中では何一つ変わっていません。もちろん、今回エベレストに登ったことで、これまでの思いが強化されたり、新しい気づきなどはありました。けれど、僕の人生観はずっとI will not complain.のままだから。それはエベレストの前後で変わるものではありませんでした。いくつものチャレンジを続けてきた中で、今回エベレストがあった。そして、そのチャレンジはこれからも続いていくものなんです。
Hiro
きっとそうなんだろうな。多くの登山家や冒険家は、自分のチャレンジをある種のショーにしてしまう。人を勇気づけるという意味においては、チャレンジをショーとして発信するのは意味のあることだとは思うよ。ただ、矢印を外側に向けすぎてしまうと本質を見失いかねない。誰のための冒険なのか?それはやはり自分のためだよね。
IKU
本当にその通りだと思います。
Hiro
自分自身にチャレンジをして、自分自身にけじめをつけて帰ってくる。IKUはそういう世界観でやっているからこそ、ものすごくオーセンティックに物事が伝わるんだと思う。今回の冒険もまたI will not complain.というロングジャーニーの中の一つのトピックなんだね。そして、人生を後から振り返った時に「ああ、あの時が変わり目だったんだな」くらいに思えればいいんじゃないかな。
IKU
まさにそんな感じです。あえていうなら、登ってから変わったんじゃなくて、登ると決めた瞬間からいろいろな気づきがありました。仕事との向き合い方や人との付き合い方が変わったし、一回一回の食事も味わって食べるようになりました。生きていることそのものが学びになるというと大袈裟かもしれませんが、そんな感覚です。
Hiro
なるほどね。
IKU
実は僕らのやっているプログラムも同じなんです。プログラムに参加すれば何かが変わるというものではなくて、その人が人生を生きる中で、「あ、あの時の経験にはこういう意味があったんだな」と後から気づくことも多い。僕らはそのための種まきに近いことをやっている。すぐ芽が出る人もいれば、しばらく経ってから出る人もいる。
Hiro
その通りだね。
IKU
きっと生きていくこと自体が、種を蒔いて、水をやって、肥料をやって、自分自身を育てていくことに違いありません。僕にとってはそれが、砂漠を走ることだったり、エベレストに登ることだったり、あるいは本を読んだり、毎回のプログラムで参加者と向き合うことなんです。いつ蒔いた種がいつ芽を出すのかわからない。プログラムをやっている最中に急に山でのシーンが想起されて、それを話した途端に会場の空気が一瞬で変わる。そんな体験を何度もしました。そういう意味では、今回の経験したことが、またどこかで誰かを勇気づけられるエピソードになるとうれしいですね。