八木
もうほとんど時間ないんだけど、俺聞きたいことがあるんだよ1個。
Hiro
僕も聞きたいことあるんですけど、お先どうぞ(笑)。
八木
先生これは、心理学の世界だと思うんですけど、ポジティブシンキングってことが最近随分言われますよね。ネガティブシンクするのとポジティブシンクするのと脳的には何がどう反応しているのか、すごい気になるんです。私は「お疲れさま」って言われるとむかつくんですよ(笑)。疲れてないよって言いたくなるんですね。ポジティブシンキングっていうのが脳的にどういう影響を持っているのか、もしあれば教えてほしいです。
川島先生
影響という観点ではまだまだデータ数が少ないんですけど、まったく同じ事象に関してポジティブにとらえる意識を持たせるのか、ニュートラルなのかネガティブに持たせるのかということで脳の反応がまったく違うということは様々な実験がなされていてわかっています。まったく同じ心境を与えているのに、意識してポジティブに解釈しようとしたときと、ネガティブに解釈しようとしたときは180度脳の働き方が違うし、その後のパフォーマンス、ビヘイビア(行動)も違ってくることもわかっています。
八木
なるほど。
川島先生
ただ、それを積み重ねていくと何が起こるか。どういう変化があるか。これについては実験としては上手くやれていません。ある程度コーチがついてポジティブに考えることを常に言ってあげないと、人は自分自身のオリジナルの方向で解釈してしまうので、長期間の影響っていうのはまだデータはほとんどないんです。ただ、少なくとも短期でいうと、まったく違うことは明らかで、ポジティブに解釈するときは脳がバンバンと働いてくれて、いわゆる脳トレ的な状態になれるってことまではわかっています。
八木
ありがとうございます。じゃあ、お疲れ様禁止で(笑)。
Hiro
僕もちょっと近い領域で、いわゆるプロスペクト理論のことを伺いたい。リーダーが変革を求められるときに、必ず変わるのが怖いという感情が生まれる。そこでやっぱり勇気が大切だと多くの経営者の方から聞きます。プロスペクト理論というのは、もらうより失うリスクが1.25倍だったか、1.3倍だったか、要するに人は失う方が怖いので、結果的に変化しない方を選んでしまう。けれど、勇気をもって変革を成し遂げていこうとするなら、そのときに脳との関係性があるのかないのか。この辺を教えていただけるとありがたいです。
川島先生
そこら辺は脳科学で結構わかっています。まず報酬の価値を判断している脳は前頭葉下面のところと、それから脳の奥深くにある基底核といった領域にあります。その判断に基づいて人がどういう情動反応を起こすかということは脳の奥深くにある辺縁系という爬虫類も持っているような古い脳で判断をしているんです。かつ、それを理性的に、例えばよりいい方向に意識して持っていく、自分自身の感覚としては嫌なんだけど、でもちゃんと考えるとこうだよねっていうのはまさに背外側前頭前野が行っています。プロスペクト理論にあるようなパッと見たリスクを回避するという人間本来の行動にとらわれずに、正しい道を選ぶという脳を持ちたければ、この背外側前頭前野のアップグレードが一番の近道になります。ここのアップグレードができている人たちは正確な判断ができるので、感覚上のリスクに惑わされないで、論理的にリスクとベネフィットを判断して行動できるようになれます。
Hiro
では、ここをずっと押してればいいですかね(笑)。
川島先生
いえいえ。脳トレをしてください(笑)。それが一番手っ取り早いです。また、非常にネガティブなのは、スマホのような情報端末を常に持ち歩くのは実はものすごく強いダメージを背外側前頭前野に与えます。これもデータで証明されていますので、情報化社会の中でスマホを手放せないっていう人は、おそらくリスク回避を誤るだろうと思います。
Hiro
先ほど話題になった継続性が10%であるっていう話、一方においてゲームって依存性があるじゃないですか。あまり意味のないゲームをずっと真剣にやっている人がたくさんいる。あれってどう見ても時間無駄だなって思っちゃうんですけど。
川島先生
ゲームの中にそういう作りこみがしてあるんですね。そこらへんはすごく面白い。心理学者がいたわけでもなくて、ゲーム開発をしていく中で開発者たちがトライアンドエラーで学んでいった、まさにドーパミン系の効果です。何らかの目に見える報酬がパッとあれば、直接報酬系に働きますし、報酬系がどんどん働くと前頭葉の働きは逆に抑制されて理性が働かなくなります。ああいったゲームは、理性をストップして原始的な要求、下位の衝動にドライブされやすいように進化しました。狙ったわけではありません。そう進化したんです。だからハマった人は長い時間やって、細かい課金をじゃんじゃんして、ひと月に何万円もゲーム会社に払っているという状況に陥る。その能力をもっとポジティブにいい方向に使えないかと、僕らも思っているところです。