不動産業
若き起業家は時代の流れに逆らって独自の不動産メソッドを確立した。2001年に上場を果たしたG社は従業員100名に対して純資産1000億という破格の価値を生み出す。しかし2008年、リーマンショックが起こると不動産業は軒並み煽りを食らった。G社の事業モデルも立ち行かなくなる。その後、組織を縮小、個人資産をつぎ込んで生き残った会社は、再び市場動向に左右されないモデルを確立。ついに最高収益を稼ぎ出すまでに復活した。今年、舵取りを若きリーダーに託すと、海外事業の拡大に向け新たなリーダーシップのあり方を探ることに。その一つがアフリカの大地に生きるマサイ族とのセッションであった。
アフリカへ。
7泊8日。途中トランジットを含め、13時間のフライトでナイロビ国際空港に降りると、まるで自転車のような小型セスナに乗り換え約1時間。東京23区とほぼ同等の広さを持つ国定公園に降り立った。滑走路のような草原にはトヨタのランドクルーザーが出迎え、公園内に建てられたテントへと導かれた。そこはまさにサファリ。昼はゾウやキリンがテントの裏山をよぎり、夜はハイエナやライオンが徘徊する。赤道直下。昼間35度もあった気温が、夜には5度にまで下がってしまう。日が昇ると同時に起床、日が落ちると焚き火を焼べる暮らしの中で、リーダーシップ探求を深めていく。いよいよ、明日はマサイだ。3000年以上も続くマサイ族は、ケニアのみならず、アフリカを象徴するトライブ(部族)。現在も約3万人のリアルマサイが集団生活をしている。酋長とのセッションにおいて、偉大なインスピレーションを得た。
以下、マサイ族酋長エマニュエル氏の話より(抜粋)
人生とは動的なものである。
私たちはケニアの南方、タンザニアの北方に住んでいるマサイです。私たちの部族は何千年もの間 Nomad (遊牧民)で、非常に強い部族として知られています。私たちは「旱魃(かんばつ)の時」と「家畜に与える食糧がなくなった時」には、その都度さまざまな場所に移動して Nomad の生活をしてきました。
私は3歳の時、父から「エマニュエル、これがお前の役割と責任だよ。」と言われ、自分のヤギを飼うという責任を与えられました。このように私たちは非常に小さい頃から「自分の存在とは何なのか?」「自分の責任とは何なのか?」と考えるようになり、自分の属するコミュニティに対して「何ができるのか?」を考えるように育てられます。 マサイ族には 「責任」、「勇気」、「尊敬」、「知恵」という大切にしている4つの価値観があります。
私たちは、とても大切なことを幼少時から継続して学びます。そして私たちは、祝いの時に歌を歌います。この歌には大切な意味があります。マサイ族は独自の文字を持たないので、歌は教育のために必要なのです。知恵は歌になり、何世代にも渡って受け継がれます。悲しい時、嬉しい時に歌を歌います。本当に嬉しい時は、ジャンプをします。ジャンプには「人生」という意味もあります。人生はアップの時もダウンの時もあります。動的であるのです。人生にはいつも必ずチャレンジがあるのです。
「ウォリアー(戦士)」から「エルダー(長老)」へ。
青年になると私たちは割礼の儀式を経てウォリアー(戦士)となります。ウォリアーは、私たちのコミュニティの中で大事な役割を担っています。彼らはスピア(槍)を持って、何世代にも渡ってテリトリーを守り、時には他の部族を攻撃して牛を獲得したりします。ウォリアーの役割は、コミュニティを守ることです。我々は旱魃の時に、住居を移動します。移動をする場所を探し、川まで行って水を運んでくるのもウォリアーの役割です。
そして、村には知恵を授けるエルダー(長老)がいます。エルダーは部族にとって重要であり、尊敬されています。エルダーは多くの経験があり、多くの知恵を持っていると思われています。エルダーには村の中での衝突や他の部族との問題(口論や議論)を解決する役割もあります。エルダーは私たちの知恵の源泉なのです。エルダーはウォリアーを卒業する者たちの中から「エウノト」という儀式を経て選ばれ、槍を知恵の杖に持ち替えてヤング・エルダーとなるのです。
タブーを破る、リーダーの決断。
私たちは、今日、変革の時を迎えています。かつて、マサイ族はイギリスの植民地政策により分断されました。そして50年前にケニアが独立を果たした時、ケニア政府の土地分譲化政策により、これまでの遊牧民としての生き方をやめて定住するように義務付けられました。この政策により、従来の生き方が許されない状況に置かれたのです。
そして2008年、世界的な気候温暖化が長期に渡る旱魃を私たちの土地にもたらし、私たちの財産である家畜の多くが死に絶えました。このことで私たちマサイ族は、部族そのものの生存が危ぶまれる状況にまで陥っています。今はこのような外部環境の変化に対して、自らが問題解決のための行動を起こさなければならない時なのです。
私たちは、文化を大切にする誇り高き民族です。(神聖な神の土地に)穀物を栽培することや、子供に「部族で生き抜く知恵を与えること」以外の教育(西洋教育)は、これまでの私たちの価値観では必要ないことと信じられてきました。しかしながら、私たちが部族として生存していくためには、こうした既成概念を打ち破らなければならないのです。
変えるもの、変えてはいけないもの。
私たちは部族を守るという使命を達成するために、「タブー」を破るという決断を迫られました。例えば、「地面を掘る」ことはタブーの一つでした。マサイ族にとって土地とは神から与えられたものであり、誰もそれを傷つける権利を持っていません。自分たちの土地を掘ることは禁断の行為でした。しかし、2008 年の旱魃を経験し、自分の土地にいながら放牧以外の生き方を見つけるために、私たちは初めて250m の井戸を掘りました。
また、マサイ族は生きるための知恵を口承文化で語り継いできました。西洋の教育を受け入れていなかったので、「子供たちを学校に行かせる」ということもタブーの一つでした。しかし、政府が何もしてくれないと不平を言い続けるだけでは何も解決できません。政府に働きかけるのであれば、やはり教育は必要です。ですから現在では子供たちを学校に行かせています。
しかしそれだけでは終わらせずに、学校が休暇の時に大人と子供が集まって、ミーティングを行っています。自分たちの文化について「何が大切か?」を話し合います。私たちの良い文化を失わせないように、子供たちに「私たちが何者なのか?」「なぜマサイ族の価値を伝承することが大切なのか?」を教えています。
さらに、我々は「女性の早婚」「少女割礼」といったかつての習慣にも踏み込みました。これまでは男尊女卑な部族であったがため、多くの決断は男性を中心に行ってきました。 今では時代の変化に伴い19名のエルダーの中、12 名が女性で構成されています。女性の知恵が必要だからです。かつて女性は人前で発言することすら認められていませんでしたが、今、私たちはそのタブーを破って新しい文化を創っているところです。
変革の時、リーダーに求められるもの。
こうした変化の時代に、私たちの「リーダー」に求められるものは次の3つに集約されます。
- 自分のテリトリー(領域)を知る
- 人々に希望を与える
- 変化への抵抗を克服し、「タブー」を破る
「テリトリー」という意味は「土地」、「心理的効力感」、「人間関係」など、さまざまな繋がりからなる自分の領域を意味します。自身が存在する社会において、また他部族との関係性において、どのような立ち位置にいて、どのような機会と脅威があるのかについては、常に内省を持って把握し続ける必要があります。自分のテリトリーを知ることで、新しい世界を創造することが可能となります。
どのような絶望的な状況が目の前にあったとしても、リーダーである者は、周囲に希望を与える存在である必要があります。リーダーが希望を口にするからこそ、周囲の人は立ち上がる勇気を持ち、現状打破をすることができるからです。
変化への抵抗は常に存在します。リーダーはその抵抗を克服し、過去のタブーを破らなければなりません。変化が必ずしも良い結果をもたらさないと信じる、古く、或いは慎重な考え方の人々に対し、時間を割いて対話を続け、この変化を乗り越えることで将来どのような利益を得ることができるのかを忍耐強く説くのです。その際、注意すべきは「共感」を通して、彼らの自信を失わせないようにすることです。
参加者の声
これは私たちの生きる世界にも共通するものである。今回は組織変革に向けたリーダーの在り方、また、そのリーダーシップの軸について、振り返る貴重な機会となった。「自身のリーダーシップの軸とは何か?」。これからも自身に問い続けていきたい。
マサイ族はエルダーという強いリーダーの存在によって、さまざまな変革を実現している。コミュニティ(組織)が周囲の環境から変化を求められた時、「Do or Die(やるか、死か)」という覚悟を持って古いタブーを破ることに挑戦し、自ら行動に移していくという態度は、周囲に好ましい影響を与える。