医薬品業界
A社は日本を代表するエスタブリッシュの一つ。長い歴史を持つA社にとっても、この20年の環境変化はかつてないスケールのものであった。グローバル化の波は一気にA社を飲みこんだ。生き残りをかけたM&Aに取り組む。2008年以降、次々と世界企業のM&Aに成功。経営陣の7割を外国籍のメンバーで固めた。世界競争に勝つために、選択と集中を繰り返す。
取り残された日本の人材たち。
一方で、この大きな変革の波に取り残されたのは数千名に及ぶ日本人材だった。日本法人の最高責任者であるプレジデントは、ある年のエグゼクティブメッセージでこう発言した。
「当社は今まさに生き残りをかけてチャレンジを続けている。M&Aに続く、外国人経営陣の大量登用は、すべて『勝つために』やってきたこと。しかし、日本の人材はまだそのフィールドについてきていない。現在、経営ボードの3割が日本人であるが、次世代を考えるとき、現実を見ると日本人はその候補にも上がってきていない。」
「現在、グローバルで経営を担う人材は平均して40代半ばである。これからの時代は少なくとも30代後半でリージョン社長、40代でエグゼクティブチームというスピードで人材を輩出していかなければならない。数千名いる日本人タレントにその機会を与え、次代の経営ボードとなってほしい。これはA社経営陣の悲願である。」
始まったリーダーシップ開発。
そして2017年。次世代選抜型リーダーシッププログラムが開催された。次世代のエグゼクティブチーム候補者を発掘し、育み、機会を与え、覚醒するまでのステージである。本プログラムを経たのち、優秀な人材には特別なキャリアアサインが用意される。混沌とする医薬品業界を生き抜くために、より大胆に、グローバルスケールのビジネスの創出を目指して、選ばれたタレントたちが取り組んでいく。
グローバルで通用するだけでは物足りない。グローバルで「勝つ」人材の輩出が目的である。単なるビジネスリテラシーを培っただけでは、難局を乗り越える力を養うことはできない。プログラムを貫く基本グランドルールは「教えない」こと。選ばれた精鋭メンバーたちは、降り注ぐ圧倒的な刺激のシャワーよって自己内省を促され、自らの手で、自らのリーダーシップバイブルを創り上げていく。
「それは自分らしいのか?」。
本プログラムは参加者自身のリーダーシップ探求と、6名1チームで組まれたアクションラーニングで構成されている。期限は約半年。まずはメガトレンドやハイテクに関するアウトライン的な知見を身につける。その後、財務・マーケ・戦略・問題解決に関する基本的なレッスンを受けたら、そこから先のアウトプットはすべて自由。枠のない世界観から何を生み出すか。どうやって不確実な未来の舵取り、信じてついてくる仲間を巻き込んでいくのか。すべてにおいて「What I want」が問われる。
開かれた次のステージ。
アクションラーニングの発表は最終日に多くの役員を前にして行われた。役員の興味を惹いたテーマは継続案件として検討されることとなる。逆に箸にも棒にもかからないテーマは3分で強制終了になる。伝わるか、伝わらないか。まさに真剣勝負だ。
第1期は部門を横断して総勢28名が選ばれた。プログラム終了後、2名はすでにグローバルアサインメントが決定し、トップ10は次のチャレンジステージであるアドバンスプログラムへ進む。そして、総勢30名の精鋭たちとともに今、第2期が始まろうとしている。