経営×脳科学

非日常体験が脳を活性化させる

Hiro:さて、次のトピックに入らせてもらいます。先ほどZoomだとなかなか共感しない。一方で、対面だと非常に共感性の数値が上がるというお話がありました。実は、今日参加されている皆さんの半分くらいの方は、私どものモンゴルでのプログラムに参加された経験があります。といっても夏の爽やかな大草原ではなく、極寒のマイナス40度の世界で、一歩間違えると死んでしまうような場所で、現地集合現地解散というプログラムをやってきました。そこで一人ひとりが自分と向き合うセッションをやってきたわけですが、「場所」っていうものは、共感、あるいは効果とどうつながるのか。個人的に聞いてみたいのですが。

川島:先ほどのプレゼンの中で「デフォルト・モード・ネットワーク」というキーワードの説明をさせてもらいました。おそらく御社がやってらっしゃるプログラムは非常に強く自分自身に向かい合う、瞑想で言うところのマインドフル瞑想をされているんだろうと思います。そこでデフォルト・モード・ネットワークを徹底的にいったんオフに持ち込む。しかも、プログラムが終わった後に多くのいろんな刺激がだらだらと入ってくる状況にない。そういった環境の中にいると今度はデフォルト・モード・ネットワークが極端にオンになって、自分のリソースを開放することによって、ひらめきを含めて、さまざまなことが頭の中に巡ってくるということもわかっています。こういう状況は今の情報化社会の中で暮らしているとなかなかないんです。例えば、夜一人でいるときもテレビやスマホからいろんな情報が入ってくるので、デフォルト・モード・ネットワークがすぐにオンからオフに切り変わってしまって、脳の中では情報を処理してしますので、完全な開放状態にはいたらない。中途半端な状態がずっと続くというのが通常の我々の生活です。そうした中で集中と発想の根源であるデフォルト・モード・ネットワークにメリハリのある刺激を入れるという観点から、結構面白いなというふうに、脳科学者として感じます。

Hiro:八木G、どうですか、今のお話を伺って。

八木:すごくよくわかる。もうちょっと人事臭い言い方をすると、非日常を作るっていうこと。僕なりには単なる非日常じゃなくて危ないところの方がいいと思っているわけ。だから冬のモンゴルなの。どういうことかというと、人間の脳はたぶん危ない時に一番活性化するんじゃないかなと思うわけ。危ないと思った瞬間に頭がワッと回るんじゃないかっていうのは実感値としてあって、例えば日本でやるときも光がまったくない真っ暗系のところに夜連れ出して星を見ながらやるとか、原始に近いような危ないって感覚があったほうが、思考はキックするんじゃないかと。それを先生の言葉では、デフォルト・モード・ネットワークを切り離すってことなんだけど、それによって得られる刺激っていうのは有効なんだよ、というふうに聞こえたんですけど、違いますか?

川島:それに対する明確な回答はありません。というのは、脳科学の実験において生命的な危機を感じるような状況って、倫理的に作っちゃいけないです。だから学者は実験できないんです。ですから、答えがないというのが1つ目の回答になります。ただ一方で、非常に身体的に危機を感じているときに脳意外でどこが働くかというと、交感神経っていう自律神経のテンションが非常に高まることがわかっています。交感神経は自分自身の命を守るために戦うか、逃げるかを決めている、そういう働きをしています。なので、生命の危機を感じるような環境下では交感神経が高い状態になる。すなわち、心拍も少し高いですし、アドレナリンも若干出ている、といったような状況下での作業になりますから、張り詰めた中で何かが起こっているのだろうということは、想定はできます。

八木:なるほど。

川島:それと、今、八木さんおっしゃった真っ暗闇の中というのはおそらく心理学的にやっている感覚遮断の方に近いのかなと思います。実は、明かりを全部消した狭い部屋の中で、濃い塩分の水槽に人をプカプカと素っ裸で浮かべる、といった実験があるんですけど、これをするとすべての音も聞こえない、物も見えない、身体に何の感覚も起こらないという感覚遮断を作ることができます。感覚遮断をしているときには最初、前頭前野がワッと働いて情報解析を一生懸命しようとして、脳が活性化するんですけども、あるところからすごくフラットな状態、起きているんだけども寝ているときに近いような状態になることがわかっています。この起きているが寝ている状態に近いということが、脳科学的には京都の高僧が瞑想に入った瞬間がまさにそれなんです。禅のポーズの瞑想って我々の瞑想とは違って無になるところまで情報を遮断するんですけども、このときに起きているけれども寝てるときの脳の反応が出てくるんです。極めて特殊な人の感覚が拡張する状況だということがわかっています。その疑似体験はおそらく真っ暗闇の中に人が出ていくと、もちろん不安感もあるんですけど、不安感を克服した次のフレーズではそうした深い瞑想のような疑似体験ができるんじゃないかと推測します。それは実際には恐怖の裏側でもあるわけですけども。

Hiro:すごいことを聞いていますね。ただ、一つお伝えしなければならないことは、我々はある意味で危険な場所には近づきますが、決して危険なプログラムをしているわけではありません。このことはくれぐれも皆さんにお伝えしておきます。そういった場において心理的に少し張り詰めた状態になることが、実は瞑想状態に入っていくことに近い効果があったんではないか、ということかもしれません。

八木:みんなモンゴルに行ったら危ない目にあわされるんじゃないかって思っているかもしれないけど、そうではないんだよ。脳が危険かもしれないと感じてくれればそれでいいんです。マイナス40度のところにいって脳が「えっ」って思ってくれればそれでいいわけ。それから、新しいところって僕は脳が活性化するような気がするんですよ、先生。例えば、アフリカに行ったことない人がアフリカ行ったり、ヨーロッパに行ったことがない人がヨーロッパに行ったりして、新しいものをパッと見たときに脳は活性化すると思うんだけど。これは僕の仮説にしか過ぎないんだけど、新しいところって危ないって脳が思うんじゃないかなって思うんです。だから、頭が活性化した状況の時に自分は何をしたくてこの会社にいるのかなとか、自分は何を大切にして生きてきたのかなっていうことを刺激としてポンと与えてあげると、普段よりもより脳が発火するようなことが起こるんじゃないかと。決して危ない目にはあわせておりませんよ(笑)。

Hiro:今のお話に付随して、歴代のアントレプレナーで成功されているリーダーたちの1つの特徴に、「ヒッチハイクをすること」「旅がとにかく好きで、準備しないでとっとと行ってしまう傾向があること」を聞いたことがあるんですが、その辺りって今のお話と近かったりもするのかなと思うんですが、いかがですか。

川島:実はお二人の話とパラレルに近い実験ってすでに行われています。我々自身が行った実験としては東北地方に住んでいる高齢者の方を沖縄に旅行させる。沖縄の高齢者の方を東北に旅行させるという実験をして、その前後で高齢者に何が起こるかということを調べた実験があります。そうすると旅行から帰ってきた後、どちらの高齢者もものすごく認知力が上がっている。記憶力や情報処理力が上がった状態になっているということがわかっています。

Hiro:すごいですね。

川島:旅先で何が起きたかを調べていくと、やっぱり普段と違う環境に適応するために、たくさんトライアンドエラーをして、深く洞察して環境をよく観察する。今、八木さんおっしゃった「脳をたくさん使う」という状況下にあったことがわかって、それが3日〜1週間という単位で起こっていると、帰ってきた後にテストをしてみると、旅とは全く関係ない記憶力などが上がっている。今コロナ渦で厳しいところありますけど、違う環境に自分を置くというのは実は脳を活性化する一番楽しくて簡単な手段の1つだと我々はとらえています。

Hiro:すごい。実はつい先日プログラムで飛騨の里山に皆さんで行ったことがありまして、面白い気づきだなと思ったのは、電車の中ではそれまでものすごく暗い顔をされていた人たちが飛騨で降りた瞬間から顔つきが変わり、一日たったら今度は目の色が変わり、どんどん活発に物事を話す状況が起こりました。今はコロナなので旅に行きづらい状況はありますが、田舎に行って帰ってきたときの脳の活性っていうのは如実に、表情、思考に表れてくるということを経験して、確かにそういうことはあるんだなって、今聞いていて思いました。

川島:あと内感としても実は旅先では1日がすごく長く感じるんです。普段の生活をしていると1日はあっという間に終わりますよね。普段のルーティンワークの中では本人は大変な仕事しているつもりでも、1日がサッとすぎると感じるのは、実は脳にとってはちょろい仕事していたという証左なんです。もっと身近なところでは、知らない場所にドライブに行ったとき、行きの時間と帰りの時間では内感が全然違うんですよ。行きの方が明らかに長い。行きは知らない環境の中で、脳が情報解析をしている。でも同じルートを帰ってくると脳が知った道を逆回ししているだけなんで、解析を止める。だから、あっという間に着いちゃう。皆さんも経験されていると思います。

Hiro:おもしろいですね。

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