経営×脳科学

エンゲージメントと脳のしくみ

Hiro:まずはキーテーマの1つ目が、このコロナ渦に置いて組織企業のいわゆるエンゲージメントがだいぶ変わってきていること。「個人力が強くなった」「個人解が強くなってきた」という良さは当然ある中において、個人と企業のエンゲージメントに関心を持たれている人事の方々がたくさんいらっしゃると思うんですけど、どのあたりが課題の本質とお考えですか?

八木:まずは、エンゲージメントとモチベーションと何が違うのか?モチベーションって自分の勝手だよね。偉くなりたい、金持ちになりたい、有名になりたい。一方、エンゲージメントっていうのは会社が目指しているものに対して自分も同意してコミットすること。エンゲージメントリングをしている人がいるけど、あれって相手がいないとつけられないよね。相手がいる上で、同じ方向を向いている状態を作るってことです。そういう脈略の中でパーパス経営っていうのが出てきた。みんな同じ目的をもってやっていこうね、そういう組織を作るのが強いよと。同じ方向性を向いているのだから、いちいち管理しなくたって自由に行動すれば、即ち会社のゴールにつながる。これがエンゲージメントだと思います。となると、会社の方向性に対して、自立した個人をどうやって引き寄せるかが一番大きな課題になっている。そのためにやれること、脳的にやれることが、なんかいっぱいありそうだぞって感じているのですが、先生、いかがですか?

川島:脳科学の世界でニューロマーケティングっていう領域があり、実はビジネスに関してもさまざまな脳科学的な解析をしているんです。会社という組織と個人のエンゲージメントっていう観点でダイレクトに研究されるというのは残念ながら我々もまだ知りません。なので、脳科学的に正確な知識はまだ世の中には存在していないと考えてください。ただ、これに類似するものはたくさんあります。例えば今おっしゃった“エンゲージメント”の根本に何があるかというと、やはり“共感と愛着”だと思います。アタッチメントと共感です。これがエンゲージメントのベースにある1つの認知機能だろうと考えます。どうすれば共感できるかについてはまだまだこれからトライアンドエラーで見つけていくところです。ようやく人と人がちゃんと共感しているかどうかを脳計測で計量化できるようになりましたから、これからいったいどういう場面で人はより共感するのかをしっかり見ていくことになります。

Hiro:なるほど。

川島:非常にプリミティブなレベルですけど、先ほど漫才師の例でお見せしましたが、リズムって意外と重要で、皆が同じリズムで何かをしているときって非常に共感が起こりやすい。もしかするとこれ軍事的に使ったのが日本のラジオ体操だったんじゃないかなという気がしています。皆で同じ動きをすると集団が極めて共感しやすい。我々も医学生の時に脳神経外科の教授が海軍体操というのを毎朝5時に起きて皆でやらされまして、真面目にやった連中は脳外科に愛着を持つようになったという黒歴史もあったりします(笑)。

Hiro:おもしろいですね。

川島:また、親子の愛着関係という観点から見た愛着形成においては、子育ての中でFace to Faceのコミュニケーションの時間を増やすということの1点しか実は方程式がない、ということがわかっています。親と子がきちっと向かい合っている時間が長ければ長いほど愛着はしっかり形成されるわけです。じゃあこれ会社に置き換えるとどうか。例えば経営者の皆さんが個々の社員の方に目配せするのは難しいと思いますが、それでも意識的に個と個としてあなたと向かい合っているというメッセージを感じさせるのはとても重要です。

八木:今の先生のお話を伺って、脳の中のニューロン、シナプスのつながりっていうのは個人個人によってかなり違う物があって、それがその人その人のヒストリーの中で個性という形で表れている。であるならば、私は経営の中で“みんな”という考えではなくて、“私”の会社はこういうことをやる会社なんだ、Aという会社はこう、Bという会社はこう、私はAという会社により強いアタッチメントを感じる、私はBだって、こういうことなんじゃないかなと思うんです。これまで多くの日本の会社は、一括りに「協調性のある人」みたいにザクッと網をかけてすくってきた。これからはもっとその人の個性を見ながら、その人が本当に自分たちと一緒にやろうとしているのか、といった観点に移行していくはずで、それがパーパス経営につながっていくと思っています。その辺りはいかがですか。いずれにしろ、脳には大きな個体差があることを前提にする必要があるのではないでしょうか?

川島:実は僕らも表にはあまりデータを出さないようにはしているんですが、青年期までの間に脳をどう使ったか?ということが、その方の成人以降の脳に大きな影響を与えています。もちろん、その先の努力によってまたアップグレードは十分可能なんですけど、すごく良い状態の脳を持っている人はものすごく高いところまでアップグレードできますし、青年期までさぼっていた場合はその人の範囲の中でしかアップグレードできないという残酷な事実もわかっています。特に重要なのが実は会社に入る前までなんですね。青年期までの脳が柔軟な時代の環境による影響は、将来にわたって非常に大きいということが脳科学的にはわかっています。例えば、受験勉強をしっかりやってきた連中と、入る大学なんてどうでもいいやと思ってきた連中とでは、僕らも驚くぐらい脳の機能が違っている。ただ、それを言っては元も子もありませんので、その状態からさらにどうすればいいかっていうのが僕らの研究テーマでした。いくらでもではないですけど、やり直しは効くと。しかし、環境による影響は非常に大きいという事実もあります。皆さん、この話は忘れてください。

八木:かなりショッキングなこと今おっしゃっていただいたんですが、ひとつあるのは、自分は受験勉強をちゃんとしなかったからもういいや、といって努力をしない人と、受験勉強はしなかったけどこれからもっと頑張ろう、と思った人とは、これからも差がついていくということもまた事実なので、僕はやっぱりその話は秘密にしておいていただいて、頑張れば脳はどんどん良くなるよって言っていただいたほうがいいような気はします。

川島:実は努力をしない人は落ちる速度もすごく速いのです。脳の可塑性の怖いところは、努力をした後にもブースト的にトレーニングを入れておかないと維持できないんです。体力と一緒です。非常に優れたスポーツ選手であってもだらだら暮らしていると、中年太りになるのと同じことが脳にも起こります。

Hiro:僕、すべてにおいてもう手遅れかなと(笑)。でもその中において頑張ります。努力を惜しまないようにして前に進みたいと思います(笑)。

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